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ダイバーシティ&インクルージョンとは?それぞれの意味や取組み方を解説

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近年はあらゆるシーンで多様性を尊重する動きが浸透し、「ダイバーシティ」はいまや耳慣れた言葉となりました。しかし、「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉の意味をしっかりと理解できていない方もいるのではないでしょうか。

今回は、ダイバーシティ&インクルージョンの意味や求められるようになった背景、企業視点で見た取り組みのメリット、施策を進めていく方法などを解説します。

1.ダイバーシティ&インクルージョンとは

ダイバーシティ&インクルージョンとは「(組織の人材がお互いに)多様性を受け入れ認め合い、それぞれの良い部分を活かしていくこと」を意味する用語です。年齢や性別、国籍、学歴、特性、趣味嗜好、宗教などにとらわれず、多種多様な人材が自らの能力を最大限に発揮し活躍できる。そのような理想的な組織作りに欠かせない概念として注目されています。

より具体的なイメージをつかむために、まずは「ダイバーシティ」と「インクルージョン」のそれぞれの意味をあらためて確認していきましょう。

1-1.ダイバーシティの意味

ダイバーシティ(Diversity)とは「多様性」を意味する言葉です。ビジネスシーンでは「それぞれ異なる、多様な属性を持つ人々が集まっている状態」を指して使用されます。

ダイバーシティで考慮される属性は、性別や人種、宗教といった議題に上りやすい内容だけではありません。以下のとおり、年齢や婚姻の有無なども含めた幅広い属性が該当します。

【不変的属性】
●年齢
●性別
●性的指向
●身体的特徴
●価値観
●国籍
●人種・民族
●出身地

【可変的属性】
●趣味
●ライフスタイル
●コミュニケーションスタイル
●服装
●教育
●経歴
●婚姻の有無
●所属組織
●仕事(勤務形態、働き方、勤務経験、収入、職務)

「ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義」p63 図1-2-1「不変的・可変的」より一部改変) - 中村 豊

属性の分類方法には諸説あるものの、「可変的(自身で選択できる)」か「不変的(自身で選択できない、あるいは選択が非常に困難)」かによって分けられる形が主流となっています。

1-2.インクルージョンの意味

一方のインクルージョン(Inclusion)は、「受容」や「包括」を意味する単語です。ビジネスにおいては「組織内の人材全員が自身の能力を活かしながら仕事に参加できる状態」をいいます。

インクルージョンは、ダイバーシティの考え方が浸透するにつれて、その先の理想として一緒に語られるようになった概念です。

すなわち、ダイバーシティが単に多様な人材が揃っていることを指すのに対して、ダイバーシティ&インクルージョンはそれらの人材全員が十分にパフォーマンスを発揮している状態を表しています。

2.求められるようになった背景

企業にダイバーシティ&インクルージョンが求められるようになった背景としては、大きく以下の2つが挙げられます。

2-1.労働人材の不足

少子高齢化が続く日本では、「2025年問題」や「2030年問題」など、総人口の減少や少子高齢化が課題となっており、労働人材の不足が深刻な問題として議論されています。

そのため、女性、シニア、外国人などダイバーシティ&インクルージョンの対象となる人々の雇用機会を増やすことで、不労働人口を確保できると期待されています。ダイバーシティ&インクルージョンの推進は、企業としての生き残りに直結する試みなのです。

2-2.ワークライフバランスの変化

人々の間でワークライフバランス(仕事と生活のバランス)の考え方が変化しつつあることも、ダイバーシティ&インクルージョンを推進すべき理由の一つです。

テレワークにより両親の介護をしながら働く方、子育てに積極的に関与するため育休を取得する男性、家庭だけでなく仕事やキャリアも大切にしたい女性など、昨今は働き方の多様化が進み、個々人が理想的なワークライフバランスを見つけやすくなりました。

しかし、長年「同質であることが良し」とされてきた日本では、丁寧な準備なくこうした働き方を推進すると組織内に軋轢を生み、一体感を損なうリスクも考えられます。そこで求められるようになったのが、お互いを認め合うダイバーシティ&インクルージョンの概念です。

3.ダイバーシティ&インクルージョンに取り組むメリット

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組むと、企業は具体的にどのようなメリットが享受できるのでしょうか。主なメリットを4つご紹介します。

3-1.人材不足の解消・優秀な人材が確保できる

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、慢性的な人材不足を解消すると同時に優秀な人材の確保にも効果的です。求職者は、働き方が柔軟で、かつその選択肢が多い企業に魅力を感じます。 テレワークや時短勤務の導入など労働環境を改善するダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、求職者への効果的なアピールとなるでしょう。応募数が増加し、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。

3-2.新しい価値観の創出が期待できる

新しい価値観を創出するには、自社や自分自身に浸透した固定観念をいったん捨てなければなりません。しかし、固定観念に自ら気づきそれをすぐに捨て去ることは難しいと思います。ダイバーシティ&インクルージョンにより新しい人材を雇い入れれば、いままでにない観点からの意見や発想が得られ、まったく新しい価値の創出が期待できます。

3-3.スキルアップが図れる

多様性を受け入れることで優秀な人材を雇い入れやすくなり、既存の従業員のスキルアップが図れるのもダイバーシティ&インクルージョンのメリットです。業務に直結するスキルが強化されるのはもちろん、自分とは異なる価値観や境遇の持ち主と仕事をすることでコミュニケーションスキルも磨かれます。従業員一人ひとりが相手の立場に寄り添うコミュニケーションを身につけられれば、職場の一体感も高まるでしょう。

3-4.社内満足度の上昇につながる

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、従業員の満足度の向上にも貢献します。人は自らの想定を越える新たな価値観に触れると好奇心がくすぐられるものです。その好奇心は「もっと○○したい」という労働意欲となり、日々の業務に前向きに取り組めるようになり、結果的に社内満足度の向上につながります。

主体的に働ける職場環境を構築することは、離職防止の観点からも重要です。人材の安定的な雇用にも寄与するでしょう。

4.ダイバーシティ&インクルージョンの施策例

ダイバーシティ&インクルージョンの導入における施策は企業によってさまざまです。ここでは、国が主体となり行っているものも含めた代表的な施策例を見ていきます。これらを参考に、まずは自社の業種や特性に見合った施策からはじめてみましょう。

4-1.働き方の多様化

ここ数年間で働き方は非常に多様化しており、ダイバーシティ&インクルージョンの施策でも従業員にどれだけ多くの選択肢を提供できるかが重要となります。その選択肢には以下のようなものが挙げられます。

  • テレワーク、リモートワーク、ワーケーションの実施
  • 時短勤務やフレックスタイム制の導入
  • 制服や服装
  • 介護・育児制度の利用促進
  • 男性の育児参加の支援制度
  • 副業の推進
  • 特別休暇の付与

「働き方改革」の実現に向けて - 厚生労働省

例えば、ある国内最大規模の通信事業者は「リモートワーク手当(1日ごとに200円)」を新設し、1日の最低勤務時間を3時間に設定するユニークな施策を行いました。3時間の勤務は連続していなくてもよく、育児や介護中の社員も働きやすい環境を整えています。

4.2.女性の活躍推進

「女性活躍推進法」の成立により、女性の長期的な雇用確保が進んでいます。女性はライフステージの変化によってキャリアに影響がおよびやすいため、ダイバーシティ&インクルージョンにおいて以下のような施策に取り組むことが求められます。

  • 育児休暇からの復帰支援プログラムの実施
  • 女性専用トイレや更衣室の設置
  • ライフステージの変化にともなう勤務地変更制度の導入
  • ライフステージの変化を理由とする退職後、○年間の再雇用制度
  • 女性リーダー育成プログラムの実施

女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定) - 厚生労働省

ある大手鉄道グループでは、「男性の仕事」という偏見も根強い鉄道業界にありながら、女性社員の積極的な採用と働きやすい環境の構築を行っています。スライド勤務の拡充や病児保育の支援充実にも力を注いだ結果、結婚や出産のようなライフイベントを理由に退職するケースが激減し、管理職に到達する女性が増加しているそうです。

女性の活躍推進とダイバーシティの関係については以下の記事でも解説しています。

女性活躍推進とダイバーシティの関係性とは?推進における課題や今後について解説

4-3.シニア世代の雇用

労働力人口が減少する一方、働く意欲を持つシニア世代は増加しており、雇用の促進が進んでいます。「高年齢者雇用安定法」では65歳までの雇用機会の確保や70歳までの就業機会の確保などが盛り込まれており、国を挙げてシニア世代の活躍を後押ししています。

ある医療法人社団では、定年に達した看護師を現役時代よりも体力を消耗しない部門で再雇用する制度を採用しています。配属されるのは来院した患者の受付相談を担当する部門で、ベテランならではの豊富な知識から適切に病状を聞き出せると評判です。

シニア世代には若手にはないスキルや経験を持ち合わせた人材が多いことから、雇用により組織全体の活性化も望めます。ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みとして期待値が高い取り組みの一つでしょう。

高年齢者雇用・就業対策 - 厚生労働省

高齢者雇用対策の取組について - 厚生労働省

4-4. 障がい者の雇用

障がいを持つ方の雇用も、ダイバーシティ&インクルージョンに欠かせない取り組みの一つです。厚生労働省によれば、令和3年時点での民間企業における雇用障がい者数は59万7,786人となり、過去最高を記録しました。

令和3年 障害者雇用状況の集計結果 - 厚生労働省

障がい者を自社に受け入れるにあたっては、以下のような施策が必要です。

  • 対応予定業務と障害特性の関係性の検討
  • 職場実習やトライアル雇用の実施
  • オフィスのバリアフリー化
  • 職務に集中できる環境づくり
  • 公的支援制度(ハローワークのジョブコーチ支援など)の活用
  • 差別を発生させない社内啓蒙活動

例えば、ある大手IT会社では、高度なITスキルを持つ精神障がい者を積極的に雇い入れています。一人ひとりがパーティションで区切られた集中しやすいデスクを用意する、柔軟な勤務時間を認める、相談相手となるリーダーを部門内に常住させるといった配慮により、当人たちの実力を存分に発揮してもらえているそうです。

4-5.外国人労働者の活用

ビジネスのグローバル化が進む現代においては、外国人労働者の活用も現実的なダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの一部です。令和3年時点で日本では173万人もの外国人労働者が働いており、「出入国管理及び難民認定法」などの条件を満たす必要こそあるものの、多くの企業にとって頼もしい人材となっています。

外国人の採用にあたっては、企業は念入りにそのサポート体制を整えることが求められます。

  • 日本語習得など語学面でのサポート
  • 職場環境に馴染むための手助け
  • 日本における法律や一般常識の共有
  • ビザ取得や住居確保など日本滞在にまつわる支援

ある大手コンビニ事業者では、自社内での外国人労働者の勤務実績をデータとして保管し銀行や不動産会社に提供するユニークな施策を行い話題となりました。住居確保やクレジットカードの発行など、外国人では信用を得ることが難しい手続きをサポートし、安心して働いてもらうための取り組みです。

4-6.性的マイノリティへの理解

世界各地で同性婚が認められつつある現代においては、従業員全員が性的マイノリティへの理解を進めることも重要なダイバーシティ&インクルージョンとみなされます。

職場における性的マイノリティにまつわるトラブルは、本人がそのトラブルを内面に抱えてしまう点が課題です。いざ表に出る時には離職という形で表面化してしまう恐れもあります。優秀な人材を失わないために、企業は少なくとも以下の対策を講じる必要があるでしょう。

  • ハラスメントなどの相談窓口の設置
  • 同性婚にも通常の既婚社員と同様に結婚一時金や結婚休暇などの支援を与える
  • 性別にとらわれず制服を着用できる制度の立案
  • LGBTなど性的マイノリティにまつわる社内啓蒙活動の推進
  • トランスジェンダーの利用しやすい更衣室やトイレの設置

自社が取り組むべき施策として参考となるのが、ある社会福祉法人の事例です。この法人では、派遣会社からLGBTの人を紹介されたことをきっかけに性的マイノリティ問題への取り組みをはじめました。性別に関わらず共同で利用しやすい設計の更衣室やトイレの設置、外部講師を招いての法人内研修の実施など、今後スタンダードとなりうる施策を実践しています。

5.ダイバーシティ&インクルージョンの取り組み方

次に、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む際の有効な手順をご紹介します。長期的に継続してこそ成果があるという認識を持ち、腰を据えて取り組むことが必要です。

5-1.目的・目標の明確化

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、目的と目標の明確化からはじまります。「なぜ自社がダイバーシティ&インクルージョンに取り組むのか」を明らかにし、採用人数や離職率など属性別の目標数値を設定しましょう。目的や目標が定まらず先々のビジョンが描けない状態では、取り組みの方向性や手法にブレが生じます。そのような状態では社員からの理解や協力も得ることも困難です。最初の準備として必ず取りかかるようにしましょう。

5-2.社内環境の改善・整備

社内環境の改善や整備もダイバーシティ&インクルージョンには欠かせません。特に言語が異なる従業員を迎え入れる際には、業務の遂行はもちろん、従業員同士のコミュニケーション手法においても入念な準備が必要です。実際に働く従業員の視点に立って現実的な施策であるかをシミュレーションし、必要があれば改善を加えていきましょう。

5-3.人事体制の見直し

多様性の実現には、指針となり受け皿となる人事体制を最適化しなければなりません。そのためには、既存従業員の声を拾い上げ、次なる人事体制に反映する必要があります。一方、多様性にこだわるあまり不当な待遇を受ける従業員が生まれることがないよう、あらゆる状況を想定することも重要です。すべての従業員が平等にメリットを享受することは難しいですが、誰の目にも明瞭な判断基準を設けることを心がけましょう。

5-4.社内の意識改革・改善

これまでご紹介してきた取り組みが良い方向性に進むかどうかは、従業員一人ひとりの意識の変化に委ねられます。そこでまず着手したいのは、経営層や管理職の意識改革です。現場のみに負担を押しつける形では、企業としての取り組みはうまく進みません。まずは指示する側の人材に対して、ダイバーシティ&インクルージョンの基本的な意識づけを行い、多様性に適応するマネジメントスキルを実践できる研修やディスカッションの機会を設定しましょう。

6.ダイバーシティ&インクルージョンの課題や懸念点

最後に、ダイバーシティ&インクルージョンを取り入れる際に想定される課題や懸念点を覚えておきましょう。

6-1.コミュニケーション対策が重要

多様な人材を受け入れるダイバーシティ&インクルージョンでは、従業員間で円滑なコミュニケーションが実現できるよう常に意識しておかなければなりません。自分とは属性の違う相手と働くことは、誰にとっても大きな挑戦です。内心ではお互いに理解したいと考えていても、うまくコミュニケーションをとれなければしだいにストレスがかかります。ミーティングの機会を増やすなどのコミュニケーション機会の増加策はもちろん、外国籍の労働者を受け入れる際には翻訳機の導入といった配慮も大切です。

6-2.評価体制の見直しが必要

ダイバーシティ&インクルージョンにより多様な人材や働き方を受け入れるにあたっては、これまでとは異なる評価体制の構築も求められます。

たとえば、テレワークを導入したとしてもオフィスへ出勤した社員と比べて著しく低い評価や待遇となってしまうようであれば対策は不十分といえます。そのほかにも、育休を取得することで出世への道が絶たれるといったこともあってはなりません。

必要とされるのは、おのおのの属性に起因する不平等が生まれない評価体制です。もちろん、すべての従業員が満足する評価体制を作り上げるのは至難の業ですが、少なくともその理想に向けて改善を続ける姿は多くの人から見られているはずです。

6-3.多様性からくる意見の衝突

ダイバーシティ&インクルージョンは多様性を受け入れ活かすこと。にもかかわらず、意見の衝突が起こりやすい現実もあります。その意見の衝突は、他者と自分の違いから生じる偏見や差別、誤解などによりもたらされるものです。企業を超えた世界の実情、といっても過言ではないかもしれません。しかし、従業員それぞれがダイバーシティ&インクルージョンの適切な理解を持ち合わせていれば、衝突を回避したり軽減したりすることが可能です。結果を急がず、時間をかけて多様性の意識を浸透させましょう。

6-4.全員が働きやすい環境の整備

働きやすい職場環境の整備は企業にとって重要な課題であり、ダイバーシティ&インクルージョンに必須でもあります。しかし、多種多様な特性を持つすべての従業員が働きやすさを感じられる職場の実現は、一朝一夕にはいきません。働き方に関する何らかの取り組みを進めた結果、一部の従業員が不公平感を抱く可能性もあります。あらゆる方向に目を向け、一部の層に偏ることのない配慮を心がけましょう。

7.まとめ

ダイバーシティ&インクルージョンの推進は、まだ見ぬ自社の可能性を引き出し、さらなる飛躍の足がかりとなりうるものです。従業員にとっても、自らの能力やパフォーマンスを最大限に発揮し、自分らしく生き生きと働ける環境が手に入るメリットがあります。

まずはダイバーシティ&インクルージョンによって目指したい未来を定め、既存の従業員から理解を得るための取り組みからはじめましょう。自社の課題に適切に対処し、最短距離でダイバーシティ&インクルージョンを実現するには、マイナビ顧問の利用をご検討ください。各業界に精通したプロフェッショナルが、貴社に最適な道筋を提案し、組織の意識改革のためにさまざまなサポートを提供します。

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